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米満賢治(助教授) 分子研リポート2000 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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(1)

米 満 賢 治(助教授)

A -1)専門領域:物性理論

A -2)研究課題:

a) ハロゲン架橋複核金属錯体の電子相と光物性 b)(D C NQI)2C u の絶縁相における格子との整合性の効果 c) θ -(B E D T -T T F )2X の絶縁相の電荷整列と光学伝導度 d)Pd(dmit)2塩の光学伝導度と電子相関の強さ

e) 擬 1 次元導体の量子相転移近傍の励起スペクトル変化 f) 中性イオン性転移におけるポテンシャル面と非断熱効果 g)メゾスコピック系の電気伝導における多チャンネル散乱効果 h)S U(2)格子ゲージ理論に基づく磁場中高温超伝導体の渦糸状態

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) 擬1次元ハロゲン架橋複核金属錯体(MMX鎖)には金属的伝導を示す平均原子価相や様々な電荷整列や格子変形 を伴う絶縁相が主に配位子、ハロゲンイオン、対イオンに依存して現れる。それぞれの電子相が現れる機構を、金属 d軌道とハロゲンp軌道に対する拡張ハバード・パイエルス型のモデルを使って調べてきた。基本的に、電子間相互 作用と電子格子相互作用が競合していて、ハロゲンイオンと金属イオンの距離や軌道のレベル差によりバランスが 変わるとする考え方と、電子間相互作用の長距離成分が競合していて、金属イオン間や複核間の距離とともにバラ ンスが変わるとする考え方があった。しかしながら、モデルに対するパラメタが多すぎて、どちらが主に効いている のかよく分かっていなかった。本年はX MMX 単位がほぼ孤立した系の光学伝導度のデータが得られたので、パラメ タを定量的に絞ることができた。最近接でないハロゲンイオンと金属イオン間のトランスファー積分や電子間斥力 がかなり大きいことがわかった。そのために電子間と電子格子間の相互作用の競合を議論した、強結合からの摂動 論に長距離相互作用による修正が必要なことがわかった。

b)D C NQI 分子が金属イオンに配位する物質には多様な電子相が知られているが、銅イオンに配位する場合はπ 軌道 とd軌道の混成により伝導性と磁性の複合した状態が現れる。圧力下で現れる絶縁相は3倍周期の格子歪みと常磁 性が共存し、パイエルスとモットの絶縁機構が協力的に働いていることが、以前の研究でわかっていた。しかし、π 軌道とd軌道のレベル差が中途半端であっても自己ドーピングが起こり、3倍周期に強く引き込まれる様子はまだ 理論研究されていなかった。ごく最近の実験では3倍周期からずれる圧力領域があることが観測されているが、そ れとは独立に自己ドーピングによる3倍周期の機構と整合非整合転移の可能性を調べるために、2バンドのパイエ ルス・ハバード型のモデルを厳密対角化して電子状態を調べていた。電子格子相互作用に比べ、d電子間の斥力がと ても強いときにはやはり格子歪みが適当な大きさになって自己ドーピングが起こり、自己無撞着な3倍周期構造が 常磁性と共存する様子がπdレベル差の広い範囲で再現できた。この範囲の周辺領域では非整合な格子変形が予想 され、より大きなサイズでの研究を進めている。

c) 擬2次元有機導体(B E D T -T T F )2X のうちθ相と呼ばれるものは、κ 相と違って二量化がないかあっても小さくハー フフィリングとみなしにくいことと、常磁性のまま電荷整列が起こることが知られていて、電子間斥力の長距離成

(2)

分が主な原因と考えられている。核磁気共鳴や振動分光から、電荷不均化がとても大きいことが観測され、長距離斥 力が大きいことが示唆されている。さらに光学伝導度のスペクトル形状から電荷整列の様子がある程度わかること が議論されていた。しかし、長距離斥力が大きいときに特有の励起子効果が光学伝導度のスペクトルに見られない。 長距離斥力の大きさを定量的に調べるため、電荷不均化を含めた静的性質をハートレー・フォック近似で、光学伝導 度を含めた動的な性質を乱雑位相近似で計算した。電荷不均化に必要な長距離斥力を使うと、光学伝導度の励起子 効果はかなり強く現れることがわかった。静的な性質を計算するときに無視された量子揺らぎの効果を考慮しても、 長距離斥力だけで定量的に電荷整列を説明することが難しいことがわかったので、弱い電子格子相互作用との協力 効果を調べている。

d) 擬2次元金属錯体であるPd(dmit)2化合物はカチオンと圧力に依存して、超伝導相、金属相、絶縁相が現れることや、 常圧でカチオンに依存して反強磁性転移するものとそうでないものがあることが知られている。以前、二量化が強 いために HOMO と L UMO が反転していることが光学伝導度から示唆されていて、密度汎関数理論と矛盾しないこ とが知られていた。分子間の各軌道間トランスファー積分を反強磁性秩序の安定性や伝導に対する相関効果の計算 に用いたときも、HOMOとL UMOの反転を仮定しないと矛盾なく説明できないことがわかっていた。以前の光学伝 導度の議論では電子間斥力が考慮されていなかったが、電子相関を考慮して光学伝導度を解析し、同一分子内の電 子間相互作用パラメタを求めることができた。これまでの解釈を変更する必要はないが、絶縁相におけるスピン間 有効相互作用の大きさの評価が若干変わった。これまで反強磁性秩序の安定性が局在スピンに対する2次元スピン 波理論の範囲で説明できたと思われたが、電子の遍歴性とスピン間相互作用の3次元性も考慮する必要があること がわかった。

e) 擬1次元有機導体(T MT T F )2X 及び(T MT S F )2X は、相転移温度以上の対称性が高い状態においても、圧力あるいは二 量化の強さに依存して電気伝導度や光学伝導度などの次元性が変わることが知られている。これについてはこれま で摂動論的方法で調べてきた。3次元的な基底状態をもつ系の光学伝導度では、励起スペクトルの高エネルギー側 で1次元系特有の形状が観測されている。しかし、励起スペクトルの変化についてはこれまでの方法で議論するこ とはできなかった。そこで、無限に長い1次元系の有限温度の物理量や局所励起スペクトルを正確に求められる、有 限温度密度行列繰り込み群を使い、局所励起スペクトルの異方性を計算した。数値計算の制約のために現時点で適 用可能な系は2本足梯子上のスピンレス・フェルミオン系に限られる。鎖内最近接斥力がある臨界点を越えるまで は金属状態で、臨界点を越えると電荷整列を伴う絶縁状態になるが、臨界点直前まで鎖内励起スペクトルの変化は 小さいにもかかわらず、鎖間励起スペクトルは鎖内電子相関に敏感に変化する。これは電子の集団運動が鎖方向に 限られるためであることがわかった。

f) 光誘起相転移を起こす物質のなかで中性イオン性転移を示すものは以前からよく調べられてきた。最近は実験技術 の発達により、時間分解の分光スペクトルが得られ、光照射直後の電荷や格子の運動が詳細にわかりつつある。理論 では断熱描像に基づくものや電子の遍歴性をなくしたモデルの非断熱から断熱描像が知られている。しかし、中性 イオン性転移は多電子特有の協力効果であるので、さらに光照射直後のダイナミクスには非断熱効果が現れると考 えられるので、遍歴電子系の断熱近似によらないダイナミクスを調べようとしている。その第一段階として、電荷移 動度に制約をつけた電子状態に対する断熱ポテンシャルをドナー・アクセプター2サイトモデルを使って計算した ところ、光照射直後の電子状態が基底状態の断熱ポテンシャル面からも励起状態の断熱ポテンシャル面のどれから も離れていることがわかった。電子相関と非断熱性を適当に考慮する必要性が改めて認識された。

g) GaA s-GaA s/A lA sヘテロ接合境界面の2次元電子系にゲート電極をつけると、ナノスケールの量子細線構造ができ、

(3)

電子の量子力学的コヒーレンスがあらわになる。低次元性に由来する顕著な電子相関効果が系の電気伝導にいかに 発現するかは興味深い問題である。いたるところに量子力学的コヒーレンスが現れるので、現実の系をモデル化す るのに注意を要する。従来、量子細線の問題は細線部を一様かつ単一チャンネルの朝永・ラティンジャー液体とみな して議論されてきた。しかし現実の量子細線では中心部の1次元領域と電子溜めが連続的に繋がっており、これは 適当でない。そこで、細線部と電子溜めの間の断熱的接続部で起こりうる多チャンネル散乱がコンダクタンスに与 える影響を調べた。従来の線型応答理論が使えないので、1次元電子系の低エネルギー励起構造を特徴づけるカッ ツ・ムーディ代数を用いて、局所化学ポテンシャルに対する多体効果を考えた。電子間の前方散乱のみを考える限り 一様単一チャンネルの場合と同じく、コンダクタンスに相互作用効果が現れないことを示した。

h)高温超伝導体の低ドープ域金属相の非可換格子ゲージ理論に基づく記述は、超伝導発現の母体であるモット絶縁体 に潜在する局所 S U(2)ゲージ対称性を指導原理に据えた新たな理論構築の試みとして、1996年に W enと L eeによっ て提唱された。現在、ゲージ構造の非可換性に基づく新たな物理現象の可能性を追求し、その実験的検出法を探って いる。

B -1) 学術論文

X. SUN, R. L. FU, K. YONEMITSU and K. NASU, “Photoinduced Polarization Inversion in a Polymeric Molecule,” Phys. Rev. Lett. 84, 2830 (2000).

K. YONEMITSU and J. KISHINE, “Dimensionality Effects on the Charge Gap in the Dimerized Hubbard Model at Quarter

Filling: the Density-Matrix and Perturbative Renormalization-Group Approaches,” J. Phys. Soc. Jpn. 69, 2107 (2000). J. KISHINE and K. YONEMITSU, “Interplay of Randomness, Electron Correlation, and Dimensionality Effects in Quasi- One-Dimensional Conductors,” Phys. Rev. B 62, 13323 (2000).

B -2) 国際会議のプロシーディングス

M. MORI, K. YONEMITSU and H. KINO, “Quasi-One-Dimensional Natures in (EtnMe4-nZ)[Pd(dmit)2]2,” J. Low Temp. Phys. 117, 1723 (1999).

J. KISHINE and K. YONEMITSU, “Phase Transitions from Incoherent and from Coherent Metal Phases in Quasi-One-

Dimensional Organic Conductors,” J. Low Temp. Phys. 117, 1741 (1999).

K. YONEMITSU, “Magnetic and Pairing Correlation Functions and Interchain Coherence in Quasi-One-Dimensional

Dimerized Organic Conductors,” J. Low Temp. Phys. 117, 1765 (1999).

M. KUWABARA and K. YONEMITSU, “Numerical Studies of Ground State Phase Diagrams for the MMX Chains,” Mol. Cryst. Liq. Cryst. 341, 533 (2000).

K. YONEMITSU, “Charge Gap and Interchain Correlation in Quasi-One-Dimensional Dimerized Organic Conductors,” Mol. Cryst. Liq. Cryst. 341, 543 (2000).

M. MORI, K. YONEMITSU and H. KINO, “Role of Dimensionality in Dimerized Two-Band Systems,” Mol. Cryst. Liq. Cryst. 341, 549 (2000).

J. KISHINE and K. YONEMITSU, “Interplay of Correlation, Randomness and Dimensionality Effects in Weakly-Coupled Half-Filled Random Hubbard Models,” Mol. Cryst. Liq. Cryst. 341, 555 (2000).

K. YONEMITSU, “Effects of Dimerization on Spin, Charge and Hopping Correlation Functions in Quasi-One-Dimensional

(4)

Organic Conductors,” Physica B 284-288, 515 (2000).

M. MORI, K. YONEMITSU and H. KINO, “Possible Ground State Phases of Pd(dmit)2 Salts,” Physica B 284-288, 1495 (2000).

M. KUWABARA and K. YONEMITSU, “Magnetic Property of MMX Chains as Dimerized Quarter-Filled Systems,” Physica B 284-288, 1545 (2000).

J. KISHINE and K. YONEMITSU, “Dimensionality Effects in Half-Filled Random Hubbard Chains,” Physica B 284-288,

1946 (2000).

M. KUWABARA and K. YONEMITSU, “Charge Ordering and Lattice Modulation in Quasi-One-Dimensional Halogen-

Bridged Binuclear Metal Complexes,” Mol. Cryst. Liq. Cryst. 343, 47 (2000).

M. MORI and K. YONEMITSU, “Collective Excitations around Charge Ordered States and Coexistent States with Different Orders,” Mol. Cryst. Liq. Cryst. 343, 221 (2000).

B -4) 招待講演

桑原真人, 「MMX 鎖における多様な電荷秩序とpd混成効果」, 光誘起相転移とその動力学サブ研究会「強相関電子系お よび強結合電子格子系における基底・励起状態と光誘起相転移への展望」, つくば , 2000年 1月 .

K. YONEMITSU and J. KISHINE, “Charge Gap and Dimensional Crossovers in Quasi-One-Dimensional Organic

Conductors,” CREST International Workshop on Pseudo Gap, Spin Gap and Anomalous Metals, Nagoya (Japan), January 2000.

J. KISHINE, “Phase Transitions from Incoherent Metallic Phases,” Condensed Matter Theory Seminar, Massachusetts Institute

of Technology (U. S. A.), April 2000.

J. KISHINE, “DC Conductance in Quantum Wires Revisited: What’s Happening between Wire and Reservoir?” Condensed Matter Physics Seminar for Graduate Students, Massachusetts Institute of Technology (U. S. A.), December 2000.

B -6) 学会および社会的活動 学協会役員、委員

日本物理学会名古屋支部委員(1996-97, 98-2000). 学会誌編集委員

日本物理学会誌編集委員(1998-99).

C ) 研究活動の課題と展望

多電子系においては次元性によって電子相関の発現の仕方が変わる。分子性物質は次元性や電子相関の強さが容易に 制御され、不純物効果がほとんどない純粋な系として確立されている。平衡状態の静的な性質だけでなく、動的なスペクト ルや、時間分解分光などによる非平衡状態のダイナミクスが観測されてくると、分子性物質に特有の“ 柔らかさ”と“ 自由度の 多さ” が顕著になってくる。もともと低次元系特有の電子相関と柔らかい系に重要な電子格子相互作用は、平衡状態の全体 的で静的な性質を論ずる限り、競合することが多い。しかし、局所的、動的、あるいは非平衡状態の性質にはこれらが協力す ることがしばしば見受けられる。電子間と電子格子間の相互作用が協力し合って初めて出現する電子状態もあり、機構が解 明されつつある。全体的−局所的、あるいは静的−動的といった時空間上の異なる領域の物性を繋げることが物理と化学

(5)

の橋渡しに重要である。本年は、動的、局所的な応答からMMX 系や Pd(dmit)2系の相互作用パラメタを定量的に決めるこ とができた。外場や元素置換によるこれらのパラメタのわずかな変化が全体に及ぼす影響や、異なる時間スケールで運動

する電子格子系の非平衡ダイナミクスが今後のテーマである。

参照

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